第54回
「逃げることの出来た中毒」
ポピュラーな中毒にアルコール中毒とニコチン中毒があります。
このうち、後者からは50年位前に逃れることが出来ました。本当に良かったと思っています。
最初に煙草を吸ったのは1955年春大学へ入った時でした。語学クラスですぐに仲良しになった10人位の友人のうち4人と校門前の麻雀屋へ行き、一人だけ麻雀のルールさえ知らなかったので、横に座って見学していました。誰かが福田お前煙草でも吸ってろというので、「ピース」だったか「いこい」だったか忘れましたが、生まれて初めて1本吸いました。こんなまずいものよく吸えるものだと思いながらも、まるまる1本胸の奥まで吸い込みました。ところが、これがとんでもない事になり、帰りの電車の中で吐き、下宿に帰っても気分の悪いのは治まらず、銭湯へ行ったりしましたが、結局2日間寝込むことになりました。
その後、あんなに気持ちが悪くなったのに、こりもせず又、吸いました。浅く吸っているうちにクセになっていました。長期休暇にアルバイトで肉体労働をしましたが、作業のあとの一服は実においしいと感じました。知らないうちに煙草のとりこにになっていました。卒業の前後には煙草の害をいろいろ読むようになりましたし、起床時の口腔内の苦い、イヤな感じなどもあり、止めたいと思いましたが、もう止められませんでした。
いろいろ禁煙の努力を致しました。数冊の本も読みましたし、その中にはエラリー・クィーンの禁煙本もありました。口が淋しいから、ガムや飴が良いとか、喫煙よりも楽しいことをするのが良いなど、やってみましたが、駄目でした。
ところが或る時、妻と何か忘れましたが賭けをしました、勝てば「ピー缶」を沢山プレゼントして貰い、負けたら禁煙すると云うものでした。絶対勝てる筈でしたが、万が一の負けになってしまいました。爾来吸っていません。女房殿の威力でしょうか、不思議なことに禁煙が出来てしまいました。
吸い始めは、今思うと大人っぽく見られたいとか、映画の場面での格好良い仕草を真似したかったからだと思います。おいしかったからではありません。その頃、女性はバーやクラブ以外では殆んど吸っていませんでした。現在、女性の喫煙者が増えているようですが、こちらもきっかけは男性のように振る舞いたいからかも知れません。
マクロビオティック誌に望月友美子さんが、『味覚と自由選択を狂わす喫煙』という記事の中で、『たばこは本来まずいものなのに100年くらい前にキャメルの広告が「たばこを吸うことがかっこいい」と情報操作で刷り込むことで、爆発的に売れました。』 『化学物質の塊であるたばこについてですが、人間の感性や欲望をコントロールされてしまう「セルフコントロール」が効かない状態におかれるということが一番の問題だと思います。』と述べられておられます。
全くそのとおりで、早く逃げられて良かったと思っています。